《MUMEI》 普通の対応『そこに置いとけ』 祐先輩はそう口を動かしたが、俺が持っているのはかなり貴重な資料もあり、床には直接置けなかった。 (仕方ないな…) コホンッ 俺が軽く咳をすると、安藤先輩の体はビクッと震え、慌てて祐先輩から離れた。 (なるほど、普通だな) 俺は以前、祐先輩が『自分以外は普通』と言っていたのを思い出した。 (そういえば、葛西先輩もそうだったな) 初めて会った時。 俺が個室の扉を開けた時、葛西先輩は真っ赤だったし、その後逃げるようにトイレを出ていった。 「…すみません」 俺はうつ向きながら、素早く本を所定の位置に戻した。 「待てよ」 トイレの時と同じように、普通じゃない祐先輩が俺を呼び止めた。 「…何ですか?」 「これ、口止料。俺の手作り」 そう言って、祐先輩は、潰れたマドレーヌを取り出した。 『祐也は甘い物、大好きだもんな。こっそりもらってきたよ』 「甘い物、好きか?」 「…嫌いです」 普通の男は、嫌いと答えるから、俺も嫌いと答えた。 「それに、ここは飲食物持ち込み禁止ですよ」 「まぁまぁ」 祐先輩は、俺にマドレーヌを押し付けた 前へ |次へ |
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