《MUMEI》

“あの箱には何が入ってたんだろう…。”




結局、売り物のネックレスを貰うことになった…。




とは言っても、ももたのお店のアクセサリーは、ももたが一つ一つ手作りした物しか扱ってない…。




世界に一つしかない“ももたのハンドメイド”…と思うだけで嬉しかった。




午後になり…




『ほなっ!
みなさんお待ちかねっ!
ビンゴ大会を始めまっせ〜!集まれぇ〜!!』




ももたの司会で、祭りの最終演目“ビンゴ大会”が始まった…。




私は裏方に回り、賞品の準備をしようと舞台袖でスタンバイしていると、小さな子供達の中に、チラッと女の人の後ろ姿が見えた。




“サキさん!?”




とっさにそう思い、目を凝らしたけれど、よくわからない…。
そうこうしていると、女の人の姿は見えなくなり、どこかへ行ってしまった…。




『ももた!!ゴメン!
すぐ戻るからっ!』




『おい。どこ行くねん?』




私は、走った。




あれはきっとサキさんだ。ももたに会いに来たんだ。




“ももたを許してくれたんだ!!”
私は、必死でサキさんを探し続けた…。




気が付くと、祭り会場から随分離れた所まで来てしまった…。




“あの人は…サキさんじゃなかったのかな……”




私は、小さな橋の上でただ呆然と立ち尽くした…。
帰り道が分からない…。
携帯も財布も無い…。
そして何より、ももたとサキさんを仲直りさせることが出来なかった…。




…うっ……うっ…。
自分の愚かさに、涙が溢れた…。




『そこのおね〜さん。
何で泣いてるの?』




遠くの方で、知らない男の人の声がした…。
涙と夕日で、よく顔が見えない…。“………誰!?”




『…いえ。
別に何でもありません。』




“怖いっ。変な人!?”
私が慌て走りだすと、その男も私を追い掛けてきた。



『おい!待て!!』




よく聞こえないけど、何か叫んでる…。
ものの数十歩、走っただけで、すぐに追い付かれ、腕を掴まれた…。




『やだ〜!!離して!!
誰か〜助けて!!』




私が叫びながら暴れていると、私の腕がちょうど、男の顔にぶつかった!




バチンッッ!!



“今だ!逃げなきゃ。”




『あほ!どあほ!!
俺や!よう見てみー!桃太じゃー(怒)!!』




“…………えっ?
………ももたー!!?”




そこには紛れもなく、真っ赤な顔面を押さえ踞っている、ももたがいる。




『…えっ?うそ?
……ゴメン、私。
…だって…ももたの声じゃなかったし…それに…ビンゴ大会は…どうしたの?』




『あ〜痛った〜。
お前が慌てて走っていくから、心配になって来たんやないかいっ!!
そしたら見失ってしもて…。探してるうちに橋の上で泣いてるお前見つけて…。ちょっと冗談のつもりで声変えたらこの仕打ちや。
ほんまやってられんで!』




『…ごめん。』




『ほらっ。帰んで!!』




ももたは私の手を取り、歩きだした…。




『…ちょっと離して。いい歳して手つないで歩くなんて恥ずかしいよ…。』




『あほ。お前は手でも、つないどらんと、また迷子になるやろ!絶対離さん!
お前も、もう25歳やろ?手つなぐより、道端でビービー泣く方が恥ずかしいわ。やめや!』




『…はい。』




『で?何があったんや?』




ももたは俯く私の顔を覗き込みながら聞いた。
それはまるで、赤ちゃんを宥めるような優しい声だった…。

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