《MUMEI》

◆◇◆

 夜桜がその若人に近付くと、彼は徐に顔を上げた。

 そして駆け寄り、夜桜の体を抱き締めた。

 夜桜は、はっとする。

(そうか‥)

 夢花が自分を依り代にした理由が、分かった。

(鈴音は‥この人に会いたくて‥)

 そう思っていると、若人はゆっくりと体を離し微笑した。

「夢花を‥連れて来て下さったんですね」

「夢花‥?」

 どうやら女は夢花と呼ばれていたらしい。

「っ‥」

 夜桜の体が傾いた。。

 それを若人が受け止める。

 その時、夜桜は自身ではなくなっていた。

 夢花として、彼の腕に抱かれていたのである。

 その表情には幸せそうな笑みを浮かべている。

「───────」

 只もう一度、抱き締めて欲しかった。

 その、温かな手で‥。

◆◇◆

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