《MUMEI》

◆◇◆

 若人が懇ろに礼を述べ深々と頭を下げると、夜桜は尋ねた。

「すまんが、名を聞いても‥?」

「はい、私は‥草愁‥といいます」

 草愁は織物屋の跡取りであるらしい。

「貴女は、巫女姫様‥ですよね」

「ああ‥彼女に呼ばれてな、何とかしてやりたいと」

 すると若人は夜桜に、自分と夢花の事を語ってくれた。

 夢花というあの女は、祇園で踊り子していた。

 その際、彼女は知り合った草愁と恋に落ち、親しく付き合うようになった。

 だが、夢花が病にかかり二人は結ばれぬまま引き離されてしまったのだという。 

 幾日かが経ち、草愁は夢花が命を落としたと聞かされ只愕然としていた。

 悶々と日々を送り、只夢花に再び会う事だけを願っていた。

「だから夢花は私を訪ねて来たのだな」

 夜桜は微笑を浮かべた。

 役に立てたのなら、彼女にとってこれ以上に嬉しい事はない。

「‥?」

 刹那、天の彼方から夢花の鳴らす鈴の音が、夜桜の耳に聞こえていた。

◆◇◆

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