《MUMEI》
四十一夜 忘れ難き名残
◆◇◆

 あれ以来、夜桜の前に夢花が現れる事はなかった。

 只時折、あの鈴の音が聞こえる事がある。

 しゃらん。

「───────」

「夜桜」

「‥?」

「どうした。気分が優れないようだが‥」

「いや、少し‥寂しいような気がしてな」

「夢花か」

「ああ。彼女が私の中にいる間‥何だか嬉しかったんだ」

「嬉しかった‥?」

「彼女に出会って、彼女の想いや苦しみや‥色々な事を感じて‥」

「お前らしいな」

「‥?」

 夜桜がきょとんとすると、彩貴は彼女の頭に、ぽん、と手を置き、横を擦り抜けた。

「暫くは安静にしていた方がいい。少なくとも明日まではな」

「‥ああ」

 夜桜は些か戸惑った。

 だが、こればかりは仕方がない。

「───────」

 空に漂う雲が、東へと流れて行くのを、夜桜はぼんやりと見つめていた。

◆◇◆

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