《MUMEI》
動悸
(冗談じゃ、…無いぞ)


俺は、津田さんの言葉にドキドキしていた。


ときめきとか、そんな部類のものではない。


恐怖と、緊張と、不安…


(あんな女を彼女にしたら)

確実に、普通の枠から外れてしまう。


『これからは、普通に生きろ、との事だ』


『は? 何、それ?』


『だから、普通に…』


『そうじゃなくて、その前!』


『だから…

それが、三日前に亡くなった旦那様の遺言だ』


『何だよ、それ!』


『旦那様は、……だ』


『それがどうした!』


『わからないのか?

旦那様はお前を……から、
だから、……て、…た』


『そ、んな…』


(何だよ、それ…)


それなら


それなら


それなら…


(悪いのは、俺って事か?)

俺と出会わなければ、旦那様は死ななかった。


旦那様を絶望させ、自殺させた俺は、旦那様の遺言を守る義務があると忍は言った。


(何で、旦那様が死ぬんだ)

かわりに、俺を殺せば良かったのに。


旦那様に愛される価値の無くなった


…この、俺を。


『死ぬのは許さない。お前は、普通に生きなくてはならない』


過去も今も、忍の口調は冷たかった。

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