《MUMEI》
台本
「大丈夫?田中君、顔色悪いわよ。保健室行けば?」

「大丈夫です」


俺は心配する司書の先生に頭を下げた。


今日は、図書委員全員で、本棚の整理や在庫のチェックを行っていた。


その中に、希先輩の姿は見当たらなかった。


(下手すると、保健室は今頃修羅場かもしれないな…)


保健室は俺にとって、鬼門のような存在だった。


「そう? …そういえば、田中君、高山一族と親しいのよね」


「い、いえ! たまたま、近くにいる機会が本当に偶然ほんの少しあるだけです!」


俺は必死で否定した。


「そっか…。でも、一応面識あるなら、お使い頼まれてくれない?」


司書の先生が俺を司書室の中に引っ張った。


「これ、津田さんと高山君に渡してほしいの」


「何ですか?これ?」


俺は、嫌な感じのタイトルの白い冊子を押し付けられ、首を傾げた。


「私が書いた文化祭の台本」


そう言われて、改めて表紙を見ると、そこには確かに脚本・相田洋子(あいだ ようこ)と、司書の先生の名前があった。


相田先生は、演劇部の顧問をしていた。


(でも、何で津田さんと高山に台本を?)


俺は再び首を傾げた。

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