《MUMEI》

『あのね……。』




私は、ももたを怒らせてしまうと分かっていながら、話し始めた…。




ももたを騙してサキさんの住所を聞き出した事…


黙って会いに行った事…


勝手に全てを話した事…


祭りに呼んだ事…




ももたはただ黙って聞いていた…。




『…ごめんなさい。』




私が謝ると、ももたは“はぁ〜”と溜め息を大きくついた。




『…お前な〜。
何でそんな無鉄砲なん?
前にも言ったやろ?そんな事して誰が喜ぶねんっ!?お前が見かけた女は、きっとサキとちゃう!!
アイツは来んかったんや。お前から全てを聞いて、俺に嫌気さしたに決まってるやろ?
会いになんて来てくれるわけないやんけ……。』




『…そんな。』




私は声を詰まらせた…。
掛ける言葉が無かった。




その時、沈黙を打ち消すように私の携帯が鳴った…。




『…もしもし?』




電話の相手は吉沢さんだった…。




『…咲良?……俺。
…今、産まれたよ……。
………赤ちゃん。
…元気な女の子だってさ。…俺、親父になったよ。』




なんでいつも、こんなタイミングなんだろう…。
もう、何もかも嫌になって私は、無言のまま電話を切った…。




『…ももた。
私、やっぱり間違ってたんだね…。何もかも…。
バチが当たったよ…。
ももたとサキさんを傷つけた罰……。』




『…どないした?…電話…彼氏からやったんか?』




『…うん。
今、赤ちゃん産まれたって…。今日が、私達のお別れの日になった……。』




ももたを好きだと思いつつも、やっぱり吉沢さんとの別れは辛かった…。




出会ってからの出来事が、走馬灯のように思い出された…。




『……そうか。
今日はお互い“雛祭り”改め“失恋祭り”やな!』




ももたの笑顔が、痛々しかった…。




『…そうだね。』




『そんな落ち込むなや!
俺なんかもっと最悪やで!これ見てみ……。』




『それって……。』




ももたはバッグの中から“小さな箱”を取り出し、ゆっくりと開いた…。




『……指輪?』




箱の中には、まだ作りかけの指輪が入っていた…。




『…あぁ。
サキに贈ろうと思て、ずっと作っててん…。
やっぱりアイツが忘れられんくてな…。
これ渡して、プロポーズしよ思てたんや…。
ははっ。もう渡せへんから、意味ないわ…。』




『…そうだったんだ。
…それ…サキさんに…。
……ごめんね。
…何も知らなくて…私。』




『もうえぇねんっ!
お互い次の相手、早く見つけようや…。
独り者同士どっちが先に恋人出来るか競争やな!』




『…うん。』




私達はただ…悲しかった。ももたは“次の恋人を見つけよう”なんて言ってたけど、お互い“立ち直るまで時間が必要”だってことは分かってた…。




そして、ももたの辛そうな引きつった笑顔を見て、
“ももたが好き”だと、
一生伝えないと決めた。




ももたをここまで傷つけたのは…私。
こんなにズルくてサイテーな私と、ももたが釣り合う訳が無い…。




…そうだ。




いつか……ももたに新しい恋人が出来たら“良かったね”って言うの。
そして“おめでとう”って笑うの…。




私は、心の中で強い決意をした。
“ももたが幸せになれますように…。”




3月3日…
世間では雛祭りとか…
桃の節句とか言って…
おめでたい日だけど…
私達二人にとっては…
“3月3日失恋記念日”。

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