《MUMEI》 シュートを打つのはユキヒロ。 (ユキヒロさんのシュートが止められる訳ない…) 椎名は夏大会で見せたユキヒロのプレーから素人キーパーに止められる訳がない。 そう思っていた。 「行くぞ〜!!」 (…いいから打てよ。 実際了解取ってから打つもんじゃないんだろ。) ユキヒロがシュートを打つ。 手加減はなかった。 (いいコース行った!!) 経験の長い椎名はそれをわかっていた。 しかし、 「バシッ!!」 シュートは止められた。 「え!?」 ハンドボールを始めたばかりの関谷や峰田でもわかった。 ユキヒロは手を抜いてはいない。 「やっぱな…」 わかっていたかのようにユキヒロはそう呟いた。 「やっぱセンスあるよお前。」 (一発で止めるとはさすがに思わなかったけど…) 「…何が?」 「何がって…」 「…目線はごまかしても、手首でどっちにくるか大体わかったよ。 バレバレ。 あんなの止められて当たり前だろ。」 「おま… ムカつくな…」 確かに手首の向きを隠して打つのは理想的なシュートといえる。 だが、技術としては難しいのだ。 「すげ〜!!」 静かになっていた椎名が声を上げる。 「凄いじゃないすか!! いいキーパー見つけましたね!!」 「だろ? 性格はあれだけどな。」 「いや… 誰もやるなんて…」 「やろうぜ。」 「え?」 「やりましょ〜よ!!」 初めて受け入れられた自分の存在。 ここに自分の存在を否定する者はいない。 人を疑ってばかりだった村木が、何故かそう信じられた。 「…」 無言で体育館を出ようとする村木。 「おい!! どこ行くんだよ!?」 「…」 「入れよハンド部!!」 「じゃ… ジャージに着替えなきゃ動きづらいからな…」 「…千秋。部室まで案内してやれ。」 「はい!!」 赤高ハンド部6人目の選手として、村木が入部した日だった。 前へ |次へ |
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