《MUMEI》 二重の衝撃俺がその事を告げると、高山は絶句していた。 高山は、二重の衝撃を受けていた。 一つは、希先輩に好きな人がいた事。 …それが屋代さんだとは、俺は言えなかったが、そういう存在がいたという事実に、高山は打ちのめされていた。 もう一つは、希先輩が、失恋…つまり、振られた事。 「希さんを振る男がこの世の中にいるなんて!」 (わ!馬鹿!) この世の中どころか、隣にいるので、俺は慌てて高山の口を塞いだ。 「左隣はテスト前でピリピリしてる大学生だし、右隣、屋代さんなんだぞ」 「そ、そっか、祐希さんに知られたら、困るよね」 振った張本人だから、確実に知っていると思ったが、俺は深く頷いた。 「で、お前はこれからどうするんだ?」 「もちろん諦めないよ! 失恋には新しい恋が一番だし!」 (新しい、恋、ねぇ) 『愛してるよ、可愛い祐也』 (…俺は、無理だな) 旦那様以外の誰かを愛しいと思う日など、… 想像したくもなかった。 「その為にも、『俊彦(としひこ』役、頑張るよ」 「あぁ、頑張れよ」 この時、俺にとって、文化祭の劇は全く他人事だった。 前へ |次へ |
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