《MUMEI》
出演依頼
「…は?」


その時、俺は三日間続いた期末テストが終わったばかりで、脱力しきっていた。

だから、頭がなかなか働かなかった。


「だから、祐也も劇に出てよ」


「…何で?」


呆気に取られている俺の目の前に、津田さんは、相田先生が作った台本を広げながら力説した。


「だって、この役、祐也にピッタリなんだもの!」


(どこが?)


その役―『孝太(こうた)』は、津田さんが主役を頼まれた『麗子(れいこ)』の恋人役で


クールで無口で、知的で切長の瞳のメガネキャラだった。


「これはもうやる人決まってるじゃないですか」


俺は、台本に書かれた名前を指差した。


「彼はかっこいいけど、どっちかっていうと『和馬(かずま)』なのよね」


「じゃあ、彼は?」


俺は、『和馬』役の名前を指差した。


「よくて、『春樹(はるき)』ね。大体、男子部員少なすぎるのよ、演劇部は」


(確かに…)


津田さんが言うように、台本を見ると、『俊彦』を高山がやったとしても、男役の女子部員が結構いた。


「だから、一緒に出ましょうよ! 祐也が出るなら私も主役ちゃんとやるから!」


「何ですか?それ」

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