《MUMEI》

「申し訳ございません」

廊下で木乃伊に女中の一人が謝っていた。

「どうかしたのかい。」

林太郎は見るに見兼ね話し掛ける。

「はい、あたしが部屋に掃除に入ったばかりに不快な思いをさせてしまったのです。」

そう云った女中の顔は打たれて紅く腫れていた。

「確かに、彼女が貴方の生活範囲に入ったことは謝罪すべき行為で在ったかもしれません。
しかしながら彼女の仕事は客人に快く泊まって頂く為の部屋の掃除なのです。
其の事は理解して下さいますか。」

木乃伊男は何も云わず部屋に戻って行く。
女中は林太郎の後ろで涙していた。

林太郎は腫れを引かすために女中に井戸水で布を濡らしたのを渡してやった。

「有り難うございます。」

「毎日お客様に見て貰う顔に痣なんか残されちゃいけないからね。」

彼女が打たれた頬は痛々しく見える。

「あたしったら何時も駄目なんです、あたしに比べてハナちゃんは……あたしと同じ年の娘なんですけど、誰にでも好かれる可愛い娘なんです。
今日だって二人のお客様に口説かれて……。」

布で顔を隠し女中は塞きを切ったように話し出した。

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