《MUMEI》

「レイは国雄の元彼女には復縁しないように念入りに仕置きした。
愛知が刺されたのはお前との関係に気付いたレイが煽ったからだ。
レイはお前の家の住所を教え、最終的に自分の家に来るように仕向けた。」

国雄を掌握していた彼女が憎い。







「そうか…………大変だったな昭一郎。」

それだけ国雄は言った。

「俺……?」

何故、俺なのだ。

国雄がうっとりするくらいの顔で笑いかけた。

「昭一郎はずっと苦しんでいたんだな。
俺によくずっと黙ってくれてたよ、俺は昭一郎に我慢できなくて酷いことを散々していたのに……不甲斐なくてごめん。」

別の人間みたいに国雄は謝る。

「かつてのギラギラした刃の塊みたいな国雄が好きだったんだ。
優しさより罵倒や憎悪、力で捩伏せていくお前が誰より神聖だった。………………知らないよ、お前なんて。」

好き嫌いなんかで推し量れないくらい狂わされた。

「昭一郎をもっと早くに愛してやれれば、護ってやれたのにな。」

「お前には必要としてくれる人間がいるだろう。」

俺の欲しいものは何も無い。

「昭一郎だって、皆必要としている。
俺だってそうだ。昭一郎の幸せを願っていたよ?
今更かもしれないけど、レイだってそうさ。確かに昭一郎を苦しめたけれど、俺達二人で居たら駄目になるからそのストッパーになってくれてたんだと思う。

もう、俺は大丈夫だから、俺が柵から抜け出せたみたいに、昭一郎も解放されよう?」

国雄の両手が伸びる。
こんなにも、しっかりと国雄に抱き留めて貰ったのは初めてだった。

窓から落ちそうなくらい体重を預けても国雄はしかっ支えてくれた。




最初で最後の、抱擁だ。

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