《MUMEI》

◆◇◆

 有難う、というその言葉に、狐叉はくすぐったげな表情をした。

「そこにいたのか」

 彩貴が顔を覗かせた。

 姫君は夜風に髪を靡かせつつ振り返る。

「ああ、話をしていてな」

「話‥?」

 こくり、と夜桜は頷く。

「眠れないのなら一緒にどうだ」

「───────」

 彩貴は暫し考え、狐叉の傍らに腰を下ろす。

「昔は‥こんな風に親しく語らう事も無かったな」

「ああ、顔を会わせては啀み合ってばかりいたからな」

「私と彩貴も同じだった」

 夜桜の言葉を、彩貴が引き継ぐ。

「夜な夜な妖を巡って諍いばかりやっていた」

「ああ‥そうだった」

 くすり、と夜桜は笑った。

◆◇◆

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