《MUMEI》

林太郎は実朝と一部の下男を呼び寄せて誉を部屋に運んだ。
誉は高熱を出して倒れたと客人達に識らせた。

春三を急遽呼び付け、診てもらう。

「うん、幸い彼の傷は浅い。軽い失血で済んだ、運が良かったね。」

春三は軽く溜息をつく。
窶れた面持ちである。寝る暇も無くやって来たせいだ。

「……疲れた。」

春三に云われてやっと安心したのか実朝は其の場に座り込んだ。

「お疲れ様、じゃあ僕は是以上居られないだろうから帰らせて戴くよ。」

憐れにも春三は内密に呼び付けられ、診察の後、帰らされた。

林太郎は春三に云われた処置を覚えさせられ、看病役に任命されてしまう。

不快で仕方が無い気持ちを噛み締めながら林太郎は深く眠る誉の横で自我を押し殺した。

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