《MUMEI》

仁田の指示に従いながら、黙々と車を走らせる葵。
「そこのホテルに入れ。」
そう言われて、看板を見上げる。
明らかにラブホテルだ。
「他にホテル無いんですか?」
葵が訝しげに仁田を見る。
「バカ、節約だよ。」
仁田は、どうでも良さそうに答える。
「仁田?風俗代の節約?」
澤田が乗り出して、仁田に聞く。
「お前にはちゃんと極上をおごってやるよ。」
それを聞くと、澤田は安心した表情を浮かべて後部座席に戻った。
車はゆっくりとホテルに入って行く。
「こんな素人相手にしても楽しく無いだろ?」
仁田が笑いながら言うと、葵が仁田を睨む。
「子供扱いしないでください!」
葵の顔が赤らむ。
「確かにこっちが頑張るのはめんどくさいしな。」
澤田も笑いながら答える。
「早く入りましょう!」
葵は1人でホテルに入って行く。
そして立ち止まった。
「葵ちゃんホテル初めて?」
後ろから澤田が言うと、葵は無言のまま頷いた。
「好きな部屋の番号を押していいよ。」
澤田が葵の頭に手を置く。
葵は、難しい表情をして、部屋の写真を
見ている。
澤田は腰から静かに拳銃を抜くと、葵に照準を合わせた。
その時、ホテルの入り口が開いて、仁田の叫び声が聞こえた。
「逃げろ葵!!」
とっさに振り向くと、腹を押さえた仁田が、自動ドアに寄りかかって立っていた。
地面には血溜まりが広がり、葵は体が熱くなるのを感じた。
「しぶといなぁ。」
澤田は拳銃を仁田に向けて、引き金を引いた。
だが崩れ落ちたのは澤田だった。
「かはっ…!」
澤田が引き金を引く一瞬前に、葵は腰の拳銃を抜き、澤田の首の頸動脈を破壊していた。

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