《MUMEI》
忘れかけた魅力
施設に着くと、屋代さんはまず職員室に俺達を案内した。


入口から、職員室に行くまでに、大きな食堂の前を通った。


朝食後らしく、まだ数名の車椅子の老人達と、その介護をする職員がいた。


(スゲー…)


高山が通った途端、人々の手が止まり、口がポカンと開いた。


視線に気付いた高山が、笑顔で軽く頭を下げた。


…うっとり


そんな言葉がぴったりな表情を全員が浮かべた。


(やっぱりキングなんだな…)


最近、情けない姿ばかり見ていたから、忘れ…


(…って、俺、ヤバい!普通は忘れねーだろ!)


「…おかしな子だね〜」


(ん?)


百面相をしている俺を見て、集団から少し離れた位置にいる車椅子の老婦人が目を細めていた。


(おかしな婆さんだな)


俺は、そう思いながら、屋代さんについて行った。


職員室内。


当たり前のように、チヤホヤされている高山に、時計ばかり見ている俺がいた。

そこに…


「おはようございます」


希先輩と、他のメンバーがやってきた。


「おはようございます!」

「…柊君、何で?」


「田中君に誘われて来ました!」


高山は、今日一番の笑顔で答えていた。

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