《MUMEI》

彼は歩み寄る影に気付かない。

小さな小屋に女が一人、変わらない色褪せぬ婉しさで待っている。


彼は、識らずに銃を磨く。


月に照り映えた光りが黒い銃をより重く見せた。
人の命を奪う分の重さだ。




鼓膜に貫くような爆音だった。
羽毛布団の羽がはらゝ舞い散る。

「――――居ない……」

男は確かに此処が影近誉の部屋だと確認した筈だった。

「菅沢様、即刻退去願います。」

物影から実朝が下男に指示を出し、菅沢を取り押さえた。

菅沢は競りで最も気前の良かった客人だ。
好いていた女中を誉によって奪われた事から恨みを買われたのである。

其の女中は行方知れず、菅沢は居場所を黙秘した。

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