《MUMEI》
桃。
3日…




私達は、祭りの打ち上げに参加して浴びる程お酒を飲んだ…。
記憶はほとんど無かったけど…ももたに何度謝っていたことだけは覚えてた…。



翌日…




『痛たたた…。』




『何?百瀬…二日酔い?』



ちゃきさんの甲高い声が頭に突き刺さる…。




『えぇ…まぁ。』




『あ〜私も、やけ酒したい気分!…さっき部長と吉沢さんが話してるの聞いちゃったんだけどね。
吉沢さんの赤ちゃん産まれたらしいよ…。
ショックだな〜。』




『…そっそうですか。』




『でね!昨日産まれたばっかなのに、もう名前決まったんだって〜!
え〜何だっけな……?』




『……えっ?もう!?』




『そうだよ…。
あっ!たしか…“桃”!
そうだ!“吉沢桃(もも)”ちゃんだ!!』




『……もも…ちゃん?』




『そう!!
なんか奥さんが決めたんだって〜。吉沢さん家って“かかあ天下”なのかもね〜。ダブルショックだ…。』




『…そっか。
…………桃ちゃんか。』




その後の朝礼で、ちゃきサンの情報が正しかったことが分かった…。
何故か…部長が得意気に話している横で、吉沢さんの顔が妙に暗いことが気になる…。




『(…どうしたの?)』




『…いや。』




そう言ったきり、目も合わせてくれなかった…。




“そりゃ…そうか。
私達…別れたんだもんね。今まで通り何でも話してくれないか…。
…でもなんか淋しいな。”なんて私が、少しショボくれていると、




『(…あのさ。今日、咲良ん家にある俺の荷物取りに行っていいかな?)』




と吉沢さんが、追い討ちをかける。




『…どうぞ。』




私も、素っ気ない態度をとってしまった…。




帰宅後…
私は、意味もなくカレーを作った。吉沢さんの分も考えて大量に…。




“やっぱりバカだ…私。”吉沢さんがご飯食べてくわけないじゃん…。
荷物を取りに来て、おしまいに決まってる…。
“何、期待してんだろ…”




ピンポーン♪




それから程なくして、吉沢さんがやってきた…。
『お茶でもどうぞ。』なんてよそよそしく接する私。




黙って、荷物を片付けてる吉沢さんとの間には、今までに感じたことない張り詰めた空気が流れていた…。




長い沈黙の後…
吉沢さんの手がピタッと止まった。




『……俺。
…………やっぱり俺。』




部屋に来て初めて口を開いた吉沢さんは泣いていた。




『…俺。
…やっぱり別れない。
……ずっと考えてた。
…無理だ。…俺には咲良が必要なんだ。』




強い力で引っ張っられ、そのまま押し倒された…。
上に覆い被さった吉沢さんの涙が私の顔にポタポタとこぼれ落ちてくる…。




『…別れないでくれ。
…不倫がダメなら…咲良が望むなら…俺、離婚する。産まれたばかりの桃を見て…親父になるって実感した。桃を産んでくれた嫁にも感謝した…。
桃のために咲良と別れるんだって言い聞かせた…。
…でも、もう自分にウソはつけないんだ…。』




『…そんなの…キャッ!』



私の話を封じるようにキスをする…。
息も出来ない程、激しく長いキス…。
そして、ブラウスに手を伸ばし、乱暴にボタンを外していく。
私が手で必死に抵抗すると、次はスカートのファスナーへと…。




“…やめて。”




ピンポーン♪
『咲良〜。醤油貸して。』



玄関の外で、ももたの声。




私は、思わず叫んだ。




『助けて!ももた!!』

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