《MUMEI》
余夜
◆◇◆

 はらり。

 はらり。

 枝先から離れて行く、淡い色の花弁。

 平安京に、再び春が訪れた。

 狐叉や黒手毬、雪兎達は日暮らし夜桜と戯れている。

 百鬼夜行のみならず、黄泉に住まう妖達は度々邸へとやって来る。

 無論夜桜は、相手をしてやるのを煩わしいなどと感じる事は微塵もない。

 むしろそれが、姫君にとっては楽しいのである。

「───────」

 ふと見上げた、闇の帳。

 そこにあるのは、煌々と照る月。

 注ぐ光が、趣深い風情を浮かび上がらせる。

 春の香に薫き染められた庭。

 仄かに匂う花びらが、夜風に誘われ儚くも雅に舞っている。

◆◇◆

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