《MUMEI》
第三章 出会い
 俺があいつに最初に出会ったときのことを話そう。
 それは大学の近くの『サッド・カフェ』という喫茶店だった。

 文学部評論学科3年(しかも二浪)で小説家志望の俺は、バイトで稼いだ、なけなしの金で買ったノートパソコンを持って、授業が無いときはそこにしけこんでいた。
 俺の悪友達も暇なときそこへ来て、一緒に騒いだり、そこから雀荘へ繰り出したりしていた。

 それはある秋の昼下がりのことだった。
 俺は図書館でコピーした資料を持って、喫茶店の隅の明るい4人掛けの席に陣取っていた。店の外が硝子越しに見える。
 そんなときにあいつはその店に入ってきた。野球帽を目深に被り、黒いウインド・ブレーカを着ていた。その下は銀色掛かった灰のバイクスーツらしい。同じ色のブーツを履いていた。腰がほどよくくびれ、均整の取れた体に、ぴったりとしたスーツの下半身は、俺の目を引いた。

 一瞬女の子かなと思ったが、歩き方で男だと分かった。

前へ |次へ

作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
ケータイ小説サイト!
(C)無銘文庫