《MUMEI》

 あいつは店内をきょろきょろと見回すと奥の俺の方に来た。俺の横を通り過ぎようとしたが立ち止まり、
「あの、ちょっとここに座っていい?迷惑?」

 俺はびっくりして、
「あ、ああ、いや別に」

 あいつはにこりとするとすぐ俺の前に腰を下ろした。胸からサングラスを取り出して掛けた。俺はあっけにとられてあいつを見ていた。
一見、まだ高校生の様な幼さを持っている顔をして、背は165センチぐらいか。
 あいつは店の硝子側の右手を頭につけて顔を隠すように俯いた。
 あまり見通しの良くない硝子の外を見ると、2、3人の柄の悪そうな学ラン姿の連中が走ってきた。

 応援団の連中だ。
 中の180センチ級のガタイ(体格)をした奴が口から泡を飛ばして他の連中に指示している。応援団長の鬼芦(おによし)だ。乱暴で評判が悪い奴だ。声が潰れ、苦しそうにだみ声で話すので、我が大学の『ダースベーダ』と渾名を付けられている。

 店内を硝子越しに奴はみたが、俺と目が合った。眼を飛ばすように俺を睨み付けた。こいつとは前に些細なことで、喧嘩寸前まで行ったことがあるのだ。
 奴はぷいと他を向くと仲間に怒鳴りながら行ってしまった。俺だけに気を取られた様だ。
 奴らが行ってしまうと、あいつは顔を上げ、ほっとしたようだった。サングラスを外し暫く下を向いていたが、俺の方を見て、

「あなた、文学部の角南大介さんだろ?」

前へ |次へ

作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
ケータイ小説サイト!
(C)無銘文庫