《MUMEI》
「・・・あ、ああ。君は?」
「俺、1年の柳生林太郎。サッカー部」
「学部は?」
「一応、電子工学だよ。でもサッカーをやるためにこの大学に入ったんだ」
「・・・頭が良いんだな。サッカーやるために電子工学に入る奴はあまりいないぜ」
「まぐれさ・・・へへっ」
「なんで俺を知ってるんだ?」
「有名だよ。小説家志望の大介さんて。この間、芸文館歴史小説大賞にノミネートされただろ?」
「・・・ああ、まぐれさ」
あいつはくすっと笑って、
「今度は大賞だよね?」
「読んだのか?」
「いいや」
俺はぎゃふんとなったが、気を取り直して聞いた。
「追われてたのか?」
あいつは外を見ながら、
「あいつらしつこいんだ。あの団長が。無理に俺を応援団に入れようとするもんだから、金玉けっ飛ばしてやった」
俺はあっけにとられた。口も悪そうだが喧嘩っぱやそうだ。
そのときあいつは帽子をとって頭を掻いた。暗い茶で染めた髪が首まで垂れた。
俺はあいつが俺好みの顔をしていることに気づいた。瓜実顔で気の強そうな眉と目。髭がまだ生えないのか、柔らかな曲線を湛えている頬と顎。意志の強そうな口元。体も中性的な丸みを帯びている。小太りなのかもしれない。
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