《MUMEI》

『助けて!ももた!!』




ドンドンドンドンッッ


『咲良!どないした!?』




私の大声に驚いた吉沢さんが口を塞ぐ。




…息が出来ない。“怖い”苦しくて怖くて…
暴れているうちに、足で戸棚をおもいきり蹴った。




ドンッ!ガッチャン!!




戸棚の上に飾ってあった写真立てやお香セットが凄い音をたてて落ちる…。




『咲良〜!大丈夫か!?
今、大家さんとこ行って鍵持ってきたるから待っとれ!!』




ももたの言葉に動揺したのか、吉沢さんの力が一瞬抜けた。




“今だ!!”
私は力一杯、吉沢さんを突き飛ばし、玄関へ向かって走った…。




ガチャッ


『咲良!!』




『……うっ……うっ…』




私は声が出なくて、ただ、ももたに、しがみ付きながら泣いた。




『……咲良?』




ももたは私の姿を見て驚きを隠せない…。
自分の着ていた上着を私に掛けると一目散に吉沢さんの所へ走っていった…。




ドカッ!!




ももたは思い切り吉沢さんを殴り飛ばした…。




『…痛って………』




『…お前!!
何やってんねん!!?
咲良襲って怖い思いさせて…泣かすなやっ!!
男として…人間として…
お前サイテーや!!!』




ドカッ!ドカッ!!




無抵抗の吉沢さんをももたは何度も何度も殴った…。




『キャー!!喧嘩!?
警察呼んだ方が良いんじゃない?』




同じ階の住民の声が聞こえた…。




『何でもありません!
あの…お騒がせしてすみませんでした!!』




私は、とっさに玄関のドアを閉めた。




『ももた!!
やめてっ!もういいよ…。ありがとう…。』




『何がええねんっ!!』




『もういいから!!
このままだと近所の人に警察呼ばれちゃう!!』




『…警察!?
そんなもん呼んでもうたらええねんっ!!
そんでこの男、警察突き出したったらええわ!
こいつが咲良にしたことは立派な犯罪や!!』




『…ダメ!!
吉沢さんには“家族”がいるんだよ…。
…そんなこと出来ない。』



『そんなもん
関係あるかーっ!!』




また吉沢さんに殴りかかろうとする、ももたを必死で押さえながら私は言った。




『…吉沢さん帰って!
もうここには来ないで!』




『…咲良。…俺……。』




『帰って!!』




吉沢さんは黙ったまま、
まとめた荷物を持って、
ふらつきながら帰っていった…。




私はその場に崩れ落ち、わんわん泣いた。




『…とりあえず
…………着替えろや。』




ももたが言う。




私の耳に、ももたの声は聞こえなかった…。
ただ永遠と泣き叫びながらボタンの無いブラウスの胸元を押さえ、うずくまっていた。




『…咲良。…強くなれ!
…強くなるんや。
…もう泣くんやない。』




ももたの声が聞こえた頃には、泣き疲れて目元が腫れていた。




『…ほらっ!』




冷やしたタオルを渡してくれた…。




『…ありがとう。』




冷たいタオルを目に当てると、またすぐに温かくなってしまった…。




それは目にタオルを当てながら、また泣いてしまっていたから。




ももたにバレないように泣き続けていると…




『…こらっ!
タオル貸しっ!そんなに泣いたらすぐに温ってしまうやろ?』




“泣くな”と言いながら、思い切り泣かせてくれる、ももたに私は言った。




『…私…強くなる!!』

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