《MUMEI》

 明らかに俺の小説を批判する奴と同じ口調だ。

「結末は一緒に死ぬことさ」
「えっ?」
「この頃は現世は一時の仮住まいという思想があったんだ。彼らは共に戦いそして死ぬ。それが彼らの今生の恋の成就なんだ」

「・・・」
 あいつは目を大きく見開いて俺を見た。
 俺はびっくりした。

 俺の言葉を目を丸くして聞いていたあいつの目から涙が一筋流れたのだ。

 俺の心臓がずきんと痛んだ。

「へ・・え。そんな恋があるんだ」
 あいつは指で涙を拭うと、
「へへ、俺、涙もろいんだ。筆が進んだらまた見せてくれる?」
「ああ、興味があるなら」
 あいつは店を出て行った。あいつの涙を流した顔が俺の脳裏に焼き付いた。

 あいつはサッカー部で結構注目され始めた。サッカーをやりたいために進学した、と言うだけあって試合の時の動きは群を抜いていた。その中性的な容姿と可愛いマスクはすぐキャンパスの女学生の人気の的になった。
 女の子の様な天才サッカー少年、ということで大学のマスコット的な存在になった。本性はじゃじゃ馬だということを知っている俺は苦笑した。

 鬼芦達も迂闊に手が出せなくなった。

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