《MUMEI》

 『サッド・カフェ』に集まる悪友達の間でもあいつの噂は良く出た。このご時世にはもう男色という性のタブーはなくなったらしい。少なくとも、俺の悪友達の話の中では。
あいつなら恋人にして一緒に歩いても恥ずかしくはない、ということのようだ。
やれやれ。

 俺は、俺の小説の主題である『今生の契り』と恋の解説を聞いて涙を流した、あいつの顔を思い出した。

 俺が書いているのは、戦国時代の話だ。戦闘場面を多く入れたので登場人物は殆ど男にしたが、恋物語も挿入したいがため、美しい少年を創出した。

 姿は少年だが、感性的には女性なのだ。

 俺は頬杖を突いて夢想した。
 あいつが、女ならなあ・・・でも小説家になれるかも分からない俺なぞに手が届くとも思えない。


 寒さが本格的になったある日の夕方、俺は授業が終わった校舎の三階の部屋の窓からサッカー部の練習を見ていた。練習が終わった後も、あいつはPK戦の練習を一人でし始めたので俺も見続けていた。

 あれから一回も面と向かったことはないが、同級生と話しながら歩くあいつを見つけるとしばらく眺めていたりした。

 俺はグランドを見ながら、あいつの息づかいが間近に聞こえてくるような錯覚を感じていた。あいつの汗の匂いを嗅いでみたい、と下腹に疼きを感じた。

俺もヤキがまわったか、と苦笑いした。

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