《MUMEI》
迎え
「はい」


「こんばんは。すみません、こちらに祐也、来ていませんか?」


「忍!?」


俺は思わず玄関に向かった。


(しまった…)


屋代さんの驚いたような表情を見て、俺は恐る恐る忍を見つめた。


忍は親戚のおじさんという事になっているから、人前では名字で呼び、敬語を使うのが普通だった。


「ここにいたのか、祐也。…行くぞ」


「は、…はい。屋代さん、お邪魔しました。
仲村さんも…おやすみなさい」


俺は慌てて頭を下げて、靴を履いた。


「…あぁ、おやすみ」

「おやすみ」


「お邪魔しました」


忍は深々と二人に頭を下げた。


(怒ってるだろうな)


屋代さんの部屋の扉を閉め、俺は忍を見つめた。


「…行くぞ」


「どこへ?」


忍は俺の部屋には向かわず、廊下を歩き出した。


(…何か、おかしくないか?)


今日の忍はいつにも増して、ピリピリしているように思えたが、ただ怒っているだけのような感じもしなかった。


「なぁ、どこに行くんだ?」


「…中で話す」


そして、俺は忍が駐車場にとめておいた


普通とは程遠いフルスモークの窓の黒い高級車に乗り込んだ。

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