《MUMEI》
車の中
「こんな目立つ車で、一体どこに行くんだ?」


「お前が生まれた場所だ。あそこに行くには、この車の方が普通だからな」


俺が生まれた場所。


そこは、普通ではない場所だった。


「…へぇ。俺を売り払うわけ?」


「違う。あそこなら、お前の部屋と違って防音設備が整っているからだ」


(そりゃ、そうだろ)


「まさか、俺とヤリたいとか、…言わないよな?」


忍に限ってあり得ないとは思ったが、俺の声は震えていた。


あそこは、そういう目的の場所だから。


「俺が、お前を?」


忍は予想通り、あり得ないというように苦笑した。


車は高速にのり、忍はスピードを上げた。


「時間がかかるから、寝てもいいぞ」


昼間の疲れで瞼が重くなっていた俺に、忍は前を向いたまま声をかけた。


高速道路は、スピードも一定だし、景色もつまらなかった。


普通はこういう時は緊張して眠れないものだろうが…

(俺ってやっぱり普通じゃないのかな?)


俺は、目を瞑ると同時に、深い眠りについていた。


結局、料金所に着くまで俺は眠っていた。

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