《MUMEI》

◆◇◆

 ぴぃ。

 雛の声に、妖はきょとんとする。

 すると雛は、ぱたぱたと羽ばたきつつ、ぴぃ、ぴぃ、と二声鳴いた。

 ありがとう、と言ったのだろう。

 妖はそれに答えるように、ぽてっ、ぽてっ、と枝の上で跳ねると、ぽーんと地に向かって飛び降りた。

 草の上で二、三度弾むと、妖は枝を見上げた。

 母鳥が戻ってきたらしい。

 ぴぃ、ぴぃ。

 母鳥と楽しげに雛が囀る声。

 それを聞く内、妖は僅かに虚無を感じ始めていた。

 その刹那。

 がさ‥。

「ああ、ここにいたのか」

 頭上から降って来た、聞き慣れた声。

 姫君だ、と妖は思う。

 ぽてっ。

 ぽてっ。

「ん、どうした」

 姫君はきょとんとし、妖の示す先を見る。

(雛‥?)

 ぽてっ。

 ぽてっ。

「お前が助けてやったのか」

 ぽてっ。

「そうか、偉いな」

 姫君は妖を掬い上げ、優しく撫でてやる。

 妖は嬉しそうに、にっこりと笑った。

◆◇◆

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