《MUMEI》
最後の遺言
「…で? ここに母親みたいに置き去りにするわけでもなく、旦那様みたいにヤル気も無いなら、何しに来たんだ?」


俺の質問に忍は答えず、手に持っていたバックを開けた。


中から出てきたのは、テープレコーダーだった。


「静かに聴け」


忍は首を傾げる俺にそれだけ言うと、再生ボタンを押した。


〈やぁ、祐也


「也(なり)っ…グッ」


忍は片手で一時停止ボタンを押して、もう片方の手で俺の口を塞いだ。


「その名を呼ぶな。お前には、その資格はもうない。
…もう一度呼んだら、続きは聞かせない。

いいな」


俺は、軽くめまいがするほど首を大きく上下に動かした。


「旦那様の、本当に、最後の遺言だ」


忍は一度テープを巻き戻し、もう一度最初から再生した。


〈やぁ、祐也。毎日ちゃんと食べて、私が言ったように普通に生きているかい?
言っておくけど、私が言った普通は、地味で目立たないって事ではないからね。
顔も、隠す必要は無いよ。
ちゃんと、説明出来なくて済まない。

ちょっと急がなくちゃいけないんだ。

忍は勘がいいからね。

じゃあね、祐也〉


カチャッ


旦那様が録音ボタンを止めた音が響いた。

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