《MUMEI》

翌日…




社内は騒然としていた。




『キャーッ!
吉沢さんどうしたんですか…その顔!?』




顔に三枚もバンソウコウを貼った吉沢さんの周りには、女性社員が集まっていた…。




『…いえ。
…何でもありません。』




無愛想に答えた吉沢さんの態度に周りは、ただ事ではないと噂話で持ちきりになっていた…。




『(あの傷…奥さんにやられたのかな…?)』


『(きっとそうよ。
浮気でもしたんじゃない?サイテーね…。)』


『(たしか奥さんって出産したばっかだったよね〜。信じらんな〜い。)』




他人のヒソヒソ話ほど、よく聞こえるものはない…。吉沢さんの評価が一気に悪くなった…。




その後…部長から呼び出された吉沢さんは
“営業マンの顔が傷だらけとは何事だ!?”
と、かなり怒られたらしい…。(ちゃきさん情報)




『百瀬!こっちおいで。』



ちゃきさんに無理矢理、給湯室へひっぱられた…。




『百瀬っ!今日仕事終わってからひま!?あんたに大事な話があるのよ〜。
今日付き合ってくれない?お願〜いっ!!』




ちゃきさんの迫力に思わず『はい。』と言ってしまった…。




“今は吉沢さんのことで頭がいっぱいなのに〜。
は〜話ってなんだろう。”




ちゃきさんの予約した店に着いた私は、綺麗なバーで驚いた…。
“ちゃきさん…会社から一緒に来れば良かったのに。『先に行ってて!』なんて変なの〜。”





なんて思いながら1人で店に入る…。




“うわぁ〜!
店内はもっと素敵だ〜。
間接照明で薄暗い中に、
夜景がキラキラ輝いているよ〜。”




『いらっしゃいませ。
百瀬様ですね?あちらでお連れ様がお待ちです。』




“えっ?お連れ様…って。ちゃきさんもういるの?”




そう思いながらウェイターの手の先を見ると、奥の席で夜景を見ているスーツ姿の男の人が見えた…。




『あっ…いえっ!
………人違いです…。
私と待ち合わせしてるのは女性ですから…。』




『こちらをお預かりしております。』




と、ウェイターが差し出した封筒には、見慣れたちゃきさんの字で“百瀬へ”と書かれていた…。




―――――――――――
百瀬へ
先に謝っておくわ。
勝手なことしてゴメン!
私、実はね、百瀬と吉沢さんが付き合ってる事知ってたのよ。
いつか…ショッピングモールで会った時、あんた達、二人を見たの。
百瀬が隠しておきたいなら私も知らないふりしてようって思ったんだけどね…。会社での最近のあんた達、見てたら切なくなっちゃって…。お節介ババァだとは思ったんだけどさ今日は吉沢さんと二人で、とことん話し合いなさい!!
頑張れ百瀬♪ちゃきより
―――――――――――




“…ちゃきさん。
知ってたんだ…。あの、ちゃきさんが知らないふりをしてくれてたなんて…。”




正直、社内一のお喋りであるちゃきさんには絶対にバレたくないと、思っていた私は、胸が傷んだ…。




『百瀬様。さぁどうぞ。』




ウェイターに吉沢さんのテーブルまで案内され、黙って席に着いた。




吉沢さんの驚いた顔を見て、私から声をかける。




『…その顔は吉沢さんも、ちゃきさんに騙されたんだね(笑)?』




『…どうして咲良が?』




『うふふっあのね…。』




私は、ちゃきさんからの手紙を渡し笑った…。
吉沢さんも手紙を読み終え笑った…。




『…バレてたんだな。』


『…みたいだね。』




私達は、ちゃきさんの優しさに触れ、笑い合えた。

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