《MUMEI》

「…じゃーおれ今日早退するわ」



ひとしきり笑った後、瀬田くんはそう言って手を振ると歩き出した。



「…え!?なんで―…」


体調でも悪いのかな!!?



私の問いかけに、瀬田くんは顔だけ振り返って答えた。



「バイトー!!今日給料いー日なんだ!!」



…理由がいかにも瀬田くんらしくて、また笑ってしまった。



「…そっか、がんばっ…れよー!!」



私が言うと、



「おー!…今度おごってやるよー!!」



と、返ってきた。



「ありがとー!」


「…上限ラーメンな!!」



瀬田くんは笑ってそう言うと、じゃあな、と手を振って廊下の角を曲がってしまった。



瀬田くんと椎名くん、は、ほんとに仲良しなんだな…


自然に笑顔が零れた。



訝しがられても
「ありがとう」
って言ったのは、


…椎名くんだったら、
きっと思っても言わないんだろうなー、って思ったから。


照れくさくて言えないんだろうなって思ったら、
私が代弁するのもいっかなあ、って。



そう、思ったから。

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