《MUMEI》
行こう
 凜の言葉通り、少し歩くと梯子が見えてきた。

「あ、よかった」

 ホッとしながら羽田は梯子を昇っていく。
そして出入口を塞いでいる蓋に片手をあて、力いっぱい押し上げる。
かなり重量のあるそれは、なかなか持ち上がらない。
 羽田が大きく息を吸ってから反動をつけて押すと、蓋は勢いよく跳ね上がった。

 出入口から見える空には、雲の間から星が瞬いていた。
羽田は外の空気を一度吸い込むと、地上に出た。

「もう、すっかり暗いですね」

後から出てきた凜が空を見上げながら言った。

「そうね。それより、ここはどこ?」

羽田は周りを見ながら言った。
 二人が出たのは、どこかの住宅街にあるマンホール。
街の造りはどちらの世界も同じはずなのだが、今二人が立っている場所に見覚えがない。
いや、わからないのだ。
多くの建物は壊されてしまって、元がどんな建物だったのかわかりにくい。
さらに街灯設備まで破壊されているらしく、所々にしか明かりがないのだ。

「目印になりそうな建物が……見当たりませんね」

凜はそう言いながら歩き出した。
羽田も歩きながら、周りのマンションや住宅を眺める。
明かりがついている部屋はない。

「あ、住所が書いてありますよ」

 凜が地域地図が書いてある看板を発見した。
その地図と記憶を照らし合わせ、自分たちがいる位置を確認する。

「わたしたちが来た方向は、あっちですね」

「よっし……! 行こう」

羽田は気合いを入れて凜が指した方向へと歩き出した。

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