《MUMEI》
忍の普通
「う…うぅ…っ…」


俺は、床に散らばった黒いリボンのようなテープを抱き締めた。


「用事は済んだ。それは、ここに置いていく」


「嫌だ!」


「旦那様の命令は、絶対だ」


(何で…)


忍の声の冷たさに、俺は思わず叫んだ。


「お前だって…
忍だって、旦那様が好きだったんだろ!
だから、旦那様と寝たんだろ!
何で、旦那様の声を消せるんだよ!」


ドンッ


忍は俺を突き飛ばした。


「う…わっ」


よろけた俺はそのままベッドに仰向けで倒れ込んだ。

ギシッ


「黙れ」


俺に馬乗りになった忍は、俺からテープを奪いとった。


「…俺が旦那様を慕っていたからなんだと言うんだ?
それとも、何か?

旦那様に捨てられたのに、執事としてお仕えしている俺を哀れんでいるのか?」

「ち…がっ」


忍は俺を睨むばかりで、暴力は振るわなかった。


…振るえなかったのだ。


それは、旦那様の命令に背く行為だから。


「俺は、旦那様の執事だ。
俺は、その事を誇りに思っている。

それは、一生、何があっても変わらない。

だから、俺は、旦那様の命令は、どんな事でも守る。それが俺の普通だからな」

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