《MUMEI》
春日さんの普通
「…春日さん」


「何だ、あんたかい」


一度目のボランティアからまだ一週間しか経っていなかったのに…


俺は、春日さんの変化に驚いた。


春日さんはベッドに横になっており、朗読を聞きに来なかった。


前回のよそ行きのきちんとした服装とは違い、パジャマを着ていて、…


総ゴムのズボンの下腹部は不自然に膨らんでいた。


「まったく。転んで歩けなくなるなんて。
この年で…オムツをするようになるなんてね」


春日さんは天井を見つめて、呟くように説明した。


(どうしよう…)


俺は、俺と同じように大切な人を亡くし…


想像出来ないほど長い時間を一人で生きている春日さんの普通をどうしても知りたくて、春日さんの部屋を訪れたが、迷っていた。


「何か訊きたい事でもあるのかい?」


「…春日さんの普通って何?」


俺は敬語を使う余裕も無かった。


「普通ねぇ…。
昔は、お国の為に戦って、死ぬのが普通で…
あの人も普通に死んでしまったし
今じゃ、女は学校行っても、働くのも普通だけど、あたしは普通じゃないって言われてたしねぇ…
何だろうね、一体…」


春日さんはそれっきり口を閉ざした。

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