《MUMEI》

“はぁ?”




怒鳴られた意味が全く分からない…。




『この〜!!
あほ。ぼけ。かす。
何考えとんねん!?
携帯にも出やへんし!!』




“ん?…携帯?”
携帯電話を見ると、ももたからの着信が8件も入っていた…。




『あっ!ごめん。
マナーモードだったから気付かなかった…。
何?急用だったの?』




私の問い掛けに、ももたはさらにブチギレた。




『“急用だったの?”やと〜(怒)…お前!!
アホぬかしとんなや!!』




『…何?何なの!?』




ももたの尋常じゃないキレ方に驚いた…。




『はぁ…。
無事やったなら別にええわ…。どんなけ心配したと思てんねん…。昨日…アイツ(吉沢)に襲われかけたし、またなんかあったんちゃうかと思て、気がきじゃなかったわ…。』




そう言って、ももたは座り込んだ…。




『…あっ…ごめん。』




ももたは昨日の事を気にして、ずっと外で待っていてくれた…。
かなり心配してくれたのだろう…。
薄着のまま、ズルズルと鼻水をすすっていた…。




“私…やっぱり…
ももたが好き…大好き。”



この気持ちはもう抑えられない…そう思った。




『…心配かけてごめんね。…いつも泣いてばかりでごめん。…もう大丈夫だから…ありがとう。』




声が続かない…。
これ以上話したら、きっと…ももたに気持ちを伝えてしまう…。苦しかった…。




『咲良!
お前の顔は大丈夫な顔とちゃう!!
辛いんやろ?ほんまは。』




ももたの問い掛けに、思い切り首を振り、私は逃げるように家に帰った…。




“もう無理だ…。ももたと今まで通りなんて出来ない。幼なじみのままなんて苦しすぎる…。”





その夜は、隣のももたの部屋で物音がするたび、ドキドキしていた…。




吉沢さんが最後に言った…“ももたくんのこと頑張れよ!”の言葉がぐるぐると頭の中を回る…。




“ももたに気持ちを伝えてもいいのかなぁ…。”




そんな事ばかりを考えていた…。




そんな夜から2日後…。




ももたとは、一度も顔を合わせていない…。
私が避けている訳でもないのに…。
“ももた…いつもの時間になってもお店に行かないのかな…。”気になる…。
ももたが外に出た気配がない…。
ゴミの日にゴミを出さない…。
夜に電気が点かない…。




“何で?家にいるはずなのに…。どうしたの?”
ももたが気になって…
気になって…仕方ない。




ピンポーン♪




私は、ももたの部屋のインターホンを押した。




…応答はない。




…しばらくして




ドカッ!!




ももたの部屋から、大きな物音がした…。




『ももた!ももた!!
…いるんでしょ!?
ドアを開けて!!』




ガチャガチャッ




数分後…ももたの部屋の鍵が開いた。




『……ももた!?』




私は驚いた。
そこにはぐったりとしたまま玄関に倒れている、ももたがいた。




『…ちょ…ちょっと
どうしたの!?ももた!
…しっかりして!!』




抱えようと触れた瞬間、ももたの体は、汗びっしょりで、すごい熱があると分かった。




『バカ!あんたスゴい熱じゃん!!病院は?薬は?』




ももたは話せる状態じゃなかった…。
“とにかく病院に…。”
無我夢中で、ももたを背負い、タクシーで病院へと向かった…。




その時の私は…
…気づきもしなかった。
ももたの右手に硬く握られていた指輪を…。

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