《MUMEI》
in グアム
「時差は大丈夫?」

月岡さんがオレ達に尋ねてきた。

「「大丈夫です!」」

外国に来たという興奮で、眠気なんてまったくなかった。

「やっぱりまだまだ子供ですね」

マネージャーとスタッフが小さい声でそんなことを言っているのが聞こえたけど、実際そうなのだからオレ達は気にしなかった。

「嬉しいな。有理とまたこうして楽しむことができるなんて」

「父さんと母さんが死んだ時は二度とふたりでは笑えないって思ってたけどな」

「――…うん」

有理はなんだかんだ言ってついてきた。

早苗さんがこっそり教えてくれたけど、有理はただ意地を張ってただけで、嬉しさを隠すのに必死だったそうだ。

オレが仕事の妨げになるとか言ってたことも図星で、余計強がる原因になったらしい。

「……でもお前の写真集が出たらオレすげー恥ずかしいんだけど」

「えーなんでだよ!」

「なんでってオレじゃないのに何かオレが見られてるのって変な感じだし……」

「その恥ずかしい写真集のおかげで旅行に来れてるんだからさ。恥ずかしがるなよ」

「あぁ」

グアムに来るくらいだから、撮影はほとんど海だった。

透き通る水。鮮やかな色とりどりの魚達。白い砂浜。

何もかもが初めてで、有理もオレも興奮を抑えられない。

「ヤバイ……。楽しすぎる……」

「この調子だと一週間って早いだろうな」

「楽しもうな」


***


「お疲れ――!これで日程はすべて終了でーす」

「あっ長崎さん!ちょっとお願いがあるんですけど……」

「何だい?有希ちゃんのお願いならなんでも聞いてあげようかな〜」

「もう長崎さん!有希には甘いんですから」

「いいじゃないか、別に。月岡さん、有希ちゃん取られると思ってヤキモチか?」

「違います!!」

長崎さんはとても親しみやすい人だ。

おおらかで笑い声が少し汚いけど、多分そこはご愛嬌。

「オレと有理を一緒に撮って欲しいんです」

「有理といえば有希ちゃんの弟の?」

「ハイ。あそこにいるんで、連れて来てもいいですか?」

「もちろん!おじさんに任せなさいっ」

おじさんこと長崎さんは胸をドンッと叩き、胸を張った。

そして強く叩き過ぎてせき込んだ。

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