《MUMEI》
演技前半開始
数分後。


他の演劇部員が到着したようで、ドアノブを回す音が聞こえた。


「あの〜カギ、開けていいですか?」


俺は、台本の手直しに夢中になっている三人に声をかけた。


「…そう…あ!ダメ!祐也、前髪元に戻して!」


津田さんが慌てて言った。

「別にこのままでも…」


「「ダメ!」」


(…?)


他の二人に強く反対されたので、俺は首を傾げながら、前髪を下ろした。


「いい?祐也。私がいいって言うまで、前髪切らないでね」

「そうよ、田中君」

「お願いね、田中君」


「はあ。…わかりました」

床屋や美容院に行くのも面倒だった俺は、素直に頷いた。


「お〜い!姉さん、皆揃ってるよ!」


部室の外から、真司が叫んだ。


真司の姉は、俺の目の前にいる部長だった。


「わかったわよ」


そして、俺達はまず部室で、出演者全員で台本の読み合わせを行う事にした。


ただし、台本の後半は変更があるから、前半のみだった。


…そこで早速高山に関する問題が浮上した。


高山のセリフがあまりにも棒読みな上に、高山は、自分の役・『俊彦』の甘いセリフの数々に抵抗を感じてしまっていた。

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