《MUMEI》
【完】
ももたは診察を終えると、眠ったまま病室へと連れていかれた…。




医者の話だと…風邪をこじらせ肺炎になりかけていた為、1週間入院が必要だということ…。




命に別状はないと聞いて、安心した私がロビーで座り込んでいると、ももたを病室まで連れていってくれた看護師さんが話しかけてきた…。




『五十嵐さんの付き添いのかたですよね?
…あの……これを。』




手渡された物は、ももたがサキさんの為に手作りしていた指輪だった…。




『…これ…どうして?』




『治療中も五十嵐さんが、ずっと握ってらっしゃったんですよ。…とても大切な指輪なんですね。』




看護師さんは優しく微笑みその場を立ち去った…。




“………。”




…あの時
私が初めてこの指輪を見た時は、まだ未完成だったのに…




指輪は完成していた。
細いシルバーのリングの所々には、細かなデザインと薄いピンクに輝く半透明な石がキラキラと、ちりばめられている。




“ももたがこんな繊細な指輪を作ったんだ…。”
なんて思いながら眺めていたら、無意識のうちに自分の薬指に、はめようとしてしまった…。




“…ん?”




指輪の内側に文字が刻まれていた…。




───────────
SAKI
───────────





“…………サキ。”




一週間後─
……ももたは退院した。




退院祝いに行った私に、
『完全復帰やで〜!』
と叫ぶももた。




『退院おめでとう。』
と言った私に、ももたが意地悪そうな顔で言う。




『ほぉ〜。
手ぶらで退院見舞いやなんて優しいやないかいっ!』



『手ぶらじゃないもん。
ちゃんと、とっておきのお祝いがあるもん。』
と、得意気に私が言う。




『どれどれっ?どこや?』
ももたはキョロキョロと見回しながら私に近づく。




『…あれ………。』
ももたの足が止まる。




目線の先には、呼んでおいたタクシーの前で、ももたを見ている、サキさんが立っていた…。




『……サキ。……何で?
咲良!これは一体どういうことや!?』




驚いているももたに、私はゆっくりと話し始めた。




『…ももた。
いっつも私を守ってくれてありがとう。
ももたの優しさが嬉しかった。…でもごめんね。
私のせいで、ももたにたくさん迷惑かけて…。
あのね…サキさんは雛祭りの日…ももたに会いに来てくれてたんだよ。
私が見たのは、やっぱりサキさんだった…。
何も言わずに帰っちゃったけど、サキさんは今でも、ももたを愛してるって、私に言った…。
…ももた。ももたの気持ちもサキさんに伝えてあげて…。』




そう言って、看護師さんから預かった指輪をももたに渡した…。




『……これ。』




ももたは黙ったまま指輪を受け取り、しばらく考えてこんだ…。




『…ももた?』




ももたは、私の顔を見ると力強くゆっくりと頷き
『ありがとう。』
と一言だけ残し、サキさんのもとへ走っていった…。



私は振り向かなかった。
きっと後ろを見れば、ももたとサキさんが抱き合っている。
そう思いながら、私は、その場を後にした…。




1ヶ月後…
ももたとサキさんの結婚式の招待状が届いた。


先週…
桃ちゃんを抱いて仲良さそうに歩いている吉沢夫妻も見かけた。




二人には心から『おめでとう』と言いたい。
あなた達二人を好きになって良かった。


“ありがとう。”




【完】

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