《MUMEI》
職員室
「休憩時間終わるぞ」


俺の背後から、そう言ったのは…


「は〜い、すみません、主任」


皆に主任と呼ばれている屋代さんだった。


「…屋代さん」


「聞いてた、俺も。あれ以上言ってたら、怒鳴るとこだった」


屋代さんは俺を職員室の中に招き入れた。


「あの子達、まだ新人でね。…春日さんにはいつも怒られてたから」


「…かばうんですね」


俺はつい、屋代さんを睨んでしまった。


春日さんは団体行動が苦手だったし、上品で礼儀作法にも厳しくて、少ししか接していない俺にも小言をよく言った。


たまに来る俺ならともかく、毎日接する彼女達ならストレスが溜まるのは普通だと思う。


(でも…)


介護職員が、いくら休憩時間でも、ああいう事を言うのが普通だなんて、俺は許せなかった。


「屋代さんも、春日さんの事、面倒だって思ってたんですか?」


春日さんは、屋代さんが話しかけても無視した事があった。


「いや。…俺も結婚してないし、将来ああなるのかなとか思った事はあったけどね」


屋代さんは苦笑しながら言った。


(そうだった)


屋代さんは一生独身なのだ。

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