《MUMEI》
普通になってはいけない
「ここには、大変な入居者が大勢いるのは事実だよ。
でも、ああいう事が普通になっちゃいけないと、俺も思う。

君達みたいなボランティアや、この仕事に理想を抱いた実習生が来ると、特にね。

その為に、俺や経験豊富な職員はフォローに回るけど、まぁ、難しいね。

ごめんね、言い訳だね」


「いえ、すみません、何か…生意気言って」


頭に血が上っていた俺は、非礼を詫びた。


普通になってもおかしくないけど、普通になってはいけない事


(そういう事も、あるんだな)


「あ!」


俺がぼんやりしていると、屋代さんが慌てて声を上げた。


「何ですか?」


「バス! しまった!行っちゃった。
田中君呼んできてって頼まれたのに」


時計を見ると、確かにいつも乗るバスの時刻を過ぎていた。


「悪い、次まで結構あるんだよな〜」


「あ、いいです、歩きますから」


「…若いなあ」


「若いですから」


俺は笑いながら、屋代さんと別れて、歩いて帰った。

(思ったより、若くなかった…)


そして、疲れて爆睡した。

春日さんは、誰も見舞いに来るなと屋代さんに言っていて…
俺は春日さんに会いにいくことができなかった

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