《MUMEI》
ハジマリ
ふと、掃除をしていた手を止めた。

あの、アルバムが見つかったからだ。

ずっとずっと、遠くに思える、あの日々の記録が…


朝、俺はいつものように制服に着替えた。
しかし、今日の俺はひと味違う。制服が今までとは全く違った。
今までのガクランからは想像もつかないような、さわやかな紺のブレザー。胸に光る校章。深緑のズボン。
すべてが新鮮だ。
着替えが一通り終わると、下の階に降りた。
そう、今日は高校の入学式。しかも、俺は引っ越してきた。
つまり、知らない地に来た異邦人。知ってる者は一人だっていない。
ふつうだったら不安なのかもしれない。だが、俺はどきどきしていた。楽しみで楽しみで仕方がない。
どんな友達が出来るんだろう。どんな奴らがいるんだろう。
そういう気分でしかなかった。高校からだし、途中からじゃないから不安じゃなかったのかもしれない。
下に降りて洗面所にいった。
鏡の前で髪をセットする。とは言ったものの、俺の場合はワックスで髪を立てるわけでもなかった。
くしでとかして寝癖を直す。それでも俺の髪は癖っ毛で、ヒドイはねはなかなか直らない。
仕方なく、黒く目立たないピンではねている前髪を止めた。
柔らかく茶色がかった髪は、今日は見事にはねていた。
こんな日にこんなにひどくはねなくたっていいじゃないか。
文句を言いつつリビングへ向かった。
リビングへ行くともうすでに父はいなく、妹の穂波がテーブルに座ってパンをかじっていた。
「おはよう、お兄ちゃん」
「うん、おはよ」
軽く挨拶を交わして席に着いた。
母は台所から現れて目玉焼きをテーブルに置きながら俺に向かって言った。
「あら、秀。おはよう。今日は大丈夫そうかしら?思っていた高校に行けなくて残念ね。もう、なんのために私立のエスカレーター式の学校に入ってたのかしら」
朝からその話?俺はうんざりしていた。そもそもそう思ってんなら父さんを単身赴任でもさせたらどうなんだ。わざわざ家族みんなで引っ越さなきゃ良いじゃないか。
「あぁ、でもここでも気を抜いてはだめよ?貴方には出来るんですからね、常にトップを…秀、聞いているの?」
「聞いてますよ。そろそろ行きますね、入学式に遅れるなんてもってのほかですから」
俺は思いっきり嫌な顔をして席を立った。
「穂波、今日兄ちゃん早く帰るからな。一緒に遊ぼう」
穂波の頭を軽くたたいて言った。
「ほんとう?わかった、待ってるね」
穂波は嬉しそうに言った。
「いけません、秀、貴方は今日から新しい塾へ行くのよ。分かってるわよね?」
「いいじゃないですか、今日くらい。穂波にも遊ぶ時間を上げて下さい!」
「穂波にはあげているわ。この子はピアノが上手よ。勉強よりもそっちを頑張って欲しいわ。…でも、貴方は違うのよ?勉強してなさい。トップに立てるのよ」
なんだよそれ。俺には勉強しかできない、みたいな言い方は…。
「ちょっと、秀!?」
「そうですね。もう行きます。さようなら」
俺はリビングの扉を思い切り閉じた。

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