《MUMEI》
隆志視点
「き…救急車」



「ダメだ…それだけは…」


「だって!血が!!」




裕斗が携帯を開けた。




「だから!…――っ…――はぁ…、ダメだ…、くっ……。俺達の立場考えろ……」



「―――隆志……」




裕斗は俺の肩を掴みながらじっと俺を見据えている。



相変わらず綺麗な深緑の目が、僅かに揺れ動いた。



「――そんなに酷くねーって…判断してもいいんだな?」



「はあ、…――ああ、ちょっとドジってカッター刺しちまっただけだから…はぁ、大袈裟にちょっと…血出てるだけ?」



裕斗の手のぬくもりがとてつもなく俺を安心させる。

頑張って…



此処まで来て良かった…、裕斗なら何とかしてくれるって…、そう信じてたから。



「――分かった、…隆志の車は?」




「待井第2パーキングに…、はぁ…、キー左のポケット…」


裕斗は俺のポケットに手を突っ込みキーを取って



「2分で戻る、間違っても惇に会いに行くなよ!」



そう言うと物凄い勢いで裕斗は走り去った。




「――行けっかよ…、一歩も…歩きたくねーし……」




無性に惇に会いたい、会いたい、会いたい…




「くそ…、会いに行きてえよ!――はあ、……怖い……痛い……
裕斗……早く……」


…………
―――……





ブルルルルルルル………

「行くぞ、隆志…、俺に掴まれ」


「――――うん…」


俺の前にしゃがみ込む裕斗の背中に、やっとの思いで手をかけると


「ゆっくり立つからな、ダメならストップって…――いや、我慢して立て」



「厳しいな、はあ、――はぁ、有り難う…、オマエ頼りになる…」


立ち上がったところで裕斗に支えられながら助手席に乗り込む。


「どんどん頼れ?――俺達ダチだろ……―――、な?……」

「―――はあ……
うん……」


バタンとドアが閉められ運転席に裕斗が乗り込んできた。






そして車は発車しだす。



座席のレバーをリクライニングさせ俺は横たわり一息つく。

「――俺の事…ダチにしてくれんの?」


「……ふざけんな、ダチだろ…、ずっと前から……」


そう言いながら右手をギュッと握ってこられた。




あったかくて…、ほっとする力強さで



「あんま喋んな、後は俺に任せろ、――俺に頼っとけ」


「ふ………あ…りがと……」



胸が苦しくて…目頭が熱くて…


「助けて…、スッゲー痛え…」



「大丈夫…、俺に任せとけ」




今隣にいる裕斗は俺が惚れていた頃の彼ではなく……、





とてつもなく頼りになる、最高のダチになっていた。

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