《MUMEI》
隆志視点
「き…救急車」
「ダメだ…それだけは…」
「だって!血が!!」
裕斗が携帯を開けた。
「だから!…――っ…――はぁ…、ダメだ…、くっ……。俺達の立場考えろ……」
「―――隆志……」
裕斗は俺の肩を掴みながらじっと俺を見据えている。
相変わらず綺麗な深緑の目が、僅かに揺れ動いた。
「――そんなに酷くねーって…判断してもいいんだな?」
「はあ、…――ああ、ちょっとドジってカッター刺しちまっただけだから…はぁ、大袈裟にちょっと…血出てるだけ?」
裕斗の手のぬくもりがとてつもなく俺を安心させる。
頑張って…
此処まで来て良かった…、裕斗なら何とかしてくれるって…、そう信じてたから。
「――分かった、…隆志の車は?」
「待井第2パーキングに…、はぁ…、キー左のポケット…」
裕斗は俺のポケットに手を突っ込みキーを取って
「2分で戻る、間違っても惇に会いに行くなよ!」
そう言うと物凄い勢いで裕斗は走り去った。
▽
「――行けっかよ…、一歩も…歩きたくねーし……」
無性に惇に会いたい、会いたい、会いたい…
「くそ…、会いに行きてえよ!――はあ、……怖い……痛い……
裕斗……早く……」
…………
―――……
▽
ブルルルルルルル………
「行くぞ、隆志…、俺に掴まれ」
「――――うん…」
俺の前にしゃがみ込む裕斗の背中に、やっとの思いで手をかけると
「ゆっくり立つからな、ダメならストップって…――いや、我慢して立て」
「厳しいな、はあ、――はぁ、有り難う…、オマエ頼りになる…」
立ち上がったところで裕斗に支えられながら助手席に乗り込む。
「どんどん頼れ?――俺達ダチだろ……―――、な?……」
「―――はあ……
うん……」
バタンとドアが閉められ運転席に裕斗が乗り込んできた。
そして車は発車しだす。
座席のレバーをリクライニングさせ俺は横たわり一息つく。
「――俺の事…ダチにしてくれんの?」
「……ふざけんな、ダチだろ…、ずっと前から……」
そう言いながら右手をギュッと握ってこられた。
あったかくて…、ほっとする力強さで
「あんま喋んな、後は俺に任せろ、――俺に頼っとけ」
「ふ………あ…りがと……」
胸が苦しくて…目頭が熱くて…
「助けて…、スッゲー痛え…」
「大丈夫…、俺に任せとけ」
今隣にいる裕斗は俺が惚れていた頃の彼ではなく……、
とてつもなく頼りになる、最高のダチになっていた。
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