《MUMEI》
噂の蝶子さん
合宿二日目。


「はい、休憩!」


(つ、疲れた…)


相田先生の指導は、俊彦さんと同じ位スパルタになってきていた。


平然としていたのは、希先輩と祐先輩、それに…


一度もNGを出さない津田さんだけだった。


「祐也と柊は買い出しね」

出番が増える後半にNGを連発した俺と、未だ笑顔がひきつる高山は、揃って全員分のアイスを頼まれた。


「俊彦さんは、ハー●ンダッツにしようかな…」


そんな風に呟く高山と一緒に俺は正門に向かった。


「お姉さん、どうしたの?」

「うちの学校に用事?」

「案内しようか?」

「それより遊ばない?」


(おいおい、ナンパかよ)


正門前で、軽音楽部員達に絡まれている女性が見えた。


「あ…の。演劇部は…」


『演劇部』


小声でそう言った女性を俺は改めて見つめた。


「田中君、あれって、まさか」


「多分、そのまさかだ」


俺が頷くと、高山は急いで女性の救出に向かった。


ミニスカートの女性は誰の目から見ても美脚で


「大丈夫ですか!?蝶子さん」


「え? どうして…?」


俺達の予想通り、間違いなく、その人は、俊彦さんの妻の蝶子さんだった。

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