《MUMEI》

その老人は赤い帽子を目深に被り、顔中白い髭で覆われていたが、一目で外国の方だとわかった。

彼は頬を丸くしてにっこりと一旦微笑むと、カウンターの方に来て僕の立っていた正面の席にゆっくりと腰を降ろした。
木製の椅子が『ギッ!』と悲鳴を上げる。
その巨体は作りものではなくどうやら本物のようだ。


「取り敢えずビールを貰おうかの。
そうじゃな…、エビスがあればそれで」

「エビス、ございますよ。
かしこまりました」


よかった、日本語は達者みたいだ。
しかしサンタクロースが“エビス”だなんて…
僕はついつい顔が綻びそうになるのをこらえながら最初の一杯をつぐためのグラスをその老人の前に用意した。


「さ、どうぞ」

「ありがとう、すまんね」


老人は僕の入れたビールの泡が落ち着くのも待たずゴクリゴクリと喉を鳴らしながら一気にそれを飲み干してしまった。
そして、

「うむ。仕事の後のビールはやはり格別じゃの。
ホーッホッホゥ!」

と笑う。

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