《MUMEI》

老人は

「そうか…。キャロルか…」

と呟いてグラスを高くかざして液体の中を眺め始めた。
そして、いつの間にか涙で潤んだ瞳を再び僕の方に向けた。


「ありがとう。
見えますぞ。グラスの中に子供達が元気に唄っている姿が…。
この笑顔じゃ、この笑顔がこんな老いぼれサンタが来るのを楽しみに待っていてくれるんじゃ」


そして老人はキャロルを大事そうにゆっくりと口の中に流し込んだ。
その目尻から溢れた涙が頬を伝って自慢の真っ赤な服に滲んで消えた。



「今夜は素敵なカクテルを本当にありがとう。
こんなにいい酒をいただいたのは久し振りじゃ。
このBARとあんたの事は一生忘れんよ」

そう言って老人はカウンターの上に一枚の紙幣を置くと、大きなブーツで床をきしませながらドアの方へと歩いて行った。

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