《MUMEI》
▽
「―――――?」
幾らも走らないでエンジンが止まって裕斗は運転席を降りた。
「着いた」
「―――はぁ、もう?」
裕斗に支えられながら車を出ると、駐車スペースが2台だけの狭い空間、そこに医院の看板がありそれが眼に入る…。
「オマエな…、ここ…、」
お笑い好きなのは分かるがこんな時までと考えると、―――
死ぬ程痛てーのに、クラクラすんのにゲラゲラ笑いたくなってきた。
「ウハハ…、サイコ…、は…、いて…」
「腹筋使うな、ほら、頑張れ」
本人は至って真面目な素振りで俺を力強く支えている。
俺はもう全面的に頼りながら裕斗に
〔小児産婦人科〕
…の中に入れて貰った。
▽
入るなり中年の看護師が出迎えた。
「すいません、コイツカッターの上にひっくり返って切っちゃったんです!」
「ええええ!カッターの上??」
「近く通ったらここ灯りついてたんで…、ダメなら他紹介して欲しいんですけど、も〜助けて下さいよ〜」
「ま、待ってて!今先生呼んでくるから!」
看護師はパタパタと走って行く。
俺は裕斗に受付近くの長椅子に座らされた。
「――そんなに酷くねーならここで十分だろ?、つか産婦人科医は縫合のプロだしな」
「――なるほどな…、産婦人科なら夜中だってやってる…」
ギャグじゃなかったのか…、まったく頼りになりすぎだ。
そうこうしている内に人の良さそうな中年の白衣の医師がさっきの看護師と現れた。
「君大丈夫、自分で歩ける?」
「は…はい」
3人がかりで診察室に運ばれてうつ伏せに寝かされた。
▽
「なんでカッターの上なんかにひっくり返るかなあ、あ〜あ、こりゃ酷い」
「―――酷いですか」
「結構縫うからね?
あ、お友達は肩抑えてて、麻酔しても痛いだろうから」
「は〜い」
裕斗は俺の肩を抑えながらしゃがみ込んで
「ひひひひ、ばっくりいってるなあ、まあ肉だけで済んで幸い?
」
「――良かったよ…、なんだ肉だけか…」
気を失う程痛かったわりにそれですんだ現実にほっとし力が抜ける。
だらだら血は出ていたが吹きだす感じではなかったから臓器にまではいってないだろう…いや分からない、どうなんだろうと考えたら不安で不安でたまらなかった。
「君神経外して本当に良かったなあ、後ちょっとずれてたらヤバかったかもよ?――はい、終了」
思った程の痛みもなく縫って貰えた。
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