《MUMEI》
普通に騙される
「…近すぎませんか?」


祐先輩は俺にぴったりくっついていて、お互い半袖から出ている素肌の部分にも触れているから、俺は不快感を感じていた。


「線香花火はこの距離が普通なんだよ」


「そうですか…」


(それなら、仕方ないか)


「それにしても、皆から少し離れてませんか?」


祐先輩と俺がいるのは、花火をやっている校庭の、本当に端の方だった。


「いいんだよ。これが普通なの」


「はぁ…」


(まぁ、津田さんと拓磨からは遠くていいけどさ)


やがて、皆も線香花火を始めたようで、その場にしゃがみ始めた。


(ん? …その場?)


「先輩、皆、あっちで…」

質問しようと横を見たら、祐先輩の顔が近くにあった。


「…何ですか?」


「祐也って普通って言葉に騙されやすいなぁと思ってさ」


言いながら、顎のラインに触れてきた。


俺の線香花火は意外と長く、火の玉が揺れていて、迂濶に動くと靴の上に落ちそうだった。


「ヒゲも生えて無いんだ?
腕も無いし。…アソコは?」


先輩の手が俺の下半身に伸びた。


「何考えてんだ!あんた!」


やっと消えた線香花火を投げ捨て、俺はその場から逃げ出した。

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