《MUMEI》
合宿最終日
花火の後、遊び疲れてそのまま寝る連中が多く、俺は風呂に入らなくても違和感が無かった。


「やあやあ、おはよう!」

はしゃぎ疲れた皆と寝不足な俺の前に、輝く笑顔の俊彦さんが現れた。


「…おはようございます」

…後ろから現れた蝶子さんはかなりお疲れのご様子だ。


(絶対ヤッてたな…)


全員がそう思う中、最終日の稽古が始まった。


「昨夜はごめんね」

「いいよ」


誤解が解けた高山に謝られ、俺は笑顔を向けた。


「昨夜はごめんね」

「…」


次にやってきた祐を俺は無視した。


「祐と何かあったの?」

「まぁ…ムカつく事が」


稽古中一緒にいる事が多い津田さんに、俺は曖昧な返事で誤魔化した。


(睨むなよ、拓磨)


ステージ下からの殺気に俺は決意した。


(文化祭が終わったら、ちゃんと断ろう)


俺は、津田さんとは付き合えない。


しかし、今津田さんとの仲がギクシャクすれば、大勢の人達に迷惑がかかる。


俺は、断るタイミングをずっと考えていたのだ。


そして、それは劇が終わった後がいいと思った。


…津田さんの『麗子』と俺の『孝太』はハッピーエンドで幸せな演技が必要だから。

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