|
《MUMEI》 ｢誉様、百円になってしまいますが。｣ 客人の一人が誉を止める。 他の客は騒然とした。 林太郎には初めて聞く単位だった。 ｢構わないよ。あの絵が手に入るのならね。｣ 誉は林太郎に微笑む。 下心が見え隠れしたが今日の彼の一番の笑顔だった。 ｢……貴方には、云っておきます。 私には愛しい人が居ますので貴方の付け入る隙は有りません。｣ 自分に対し金に糸目を付けない彼に林太郎は見返りを求められるのかと不安になる。 ｢……何も求めて無いよ、此れは投資だ。 君に対するね。 君が僕を求めるようにささやかな願掛けなのさ。 此の絵画の魅力は良く理解したつもりだ、だから、気が向いたら家に来ればいいよ、君もね。｣ 誉は友人だと云うのにも関わらず上からの物云いで木乃伊の肩に手を置く。 彼は誉によって絵画を掠め取られたのだ。 林太郎なら屈辱で罵倒の一つでも浴びせた所を彼は辛抱強く黙っていた。 ｢誉様、儂も見せて戴きたいものです｣ ｢其れなら私も｣ 影近家は侯爵家であるから人々は何とか繋がりを持とうと殺到した。 其の隙に実朝は林太郎を隠す。 ｢君は先に帰りなさい。｣ 誉ならば林太郎を無理矢理持ち帰り兼ねないからだ。 前へ |次へ |
|
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |